ある研究者の手記

セキュリティとかゲームとかプログラミングとかそのへん

Oculus Riftはいいぞ。最高だ

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1月ごろ事前予約開始したのを偶然知り、9万円以上という値段に一瞬たじろぎながらも完全にノリと勢いだけで注文したOculus Riftがついに先週自宅に届いたのですが、この一週間毎日遊んだ感想をまとめておきたいと思います。ひとことで言うと、自分がこの十年の間に触ったガジェットの中では最高に興奮しました。やばい。Oculus Riftやばい。

ご存じない方のために念のため説明しておくと、Oculus RiftHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の一種です。これまでのHMDは頭を動かすと自分の頭についているHMD本体も一緒に動くため、映像も一緒に動いてしまうので単純に「頭に普通のディスプレイをくっつけているだけ」に等しい状態でした。しかしOculus Riftは内部・外部にセンサーがあり「頭を動かすと見えている映像も追随して動く」という機能を実現しています。このような製品は総称してVR(バーチャルリアリティHMDなどと呼ばれており、HTC VivePlayStation VRもその仲間です。どういうことが起きるのかの雰囲気は以下の動画からどうぞ。

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まず総評

自分の語彙のなさが歯がゆいのですが、とにかくまず言えることは没入感が半端なくすごいです。センサーで頭の動きを追跡して映像を追随させる、と言われると「どうせ微妙に位置がずれたり反応がぶれたりするんでしょう?」と思うかもしれません。というか、自分自身がそう思っていたのですが、使ってみると完璧と言って差し支えないほどの精度で映像が動くという点に驚愕しました。格ゲーをやりこんでいるような人だとフレームレートの違いが認識できるらしいので、そのレベルになるとひょっとしたら違和感を感じるのかもしれませんが、私のような一般人にしてみると映像の動きはリアルと全く変わらないと感じました。一人称視点の映像だと完全にその世界に入りこんで「どこだここ!?」みたいになります。

もう一つすごいと思ったのはコンテンツの可能性の幅の広さです(コンテンツそのものの量はまだそれほど多くない)。今までVRはゲームに使うものだよね的な議論が多かったような気がしていますが、思った以上にいろいろな分野で応用できるのではないかと感じました。ゲームも一人称視点のものに限られるかと考えていたのですが、三人称視点のゲームとかシムシティのようなシミュレーションゲーム、あるいはリアルタイム戦略ゲーム(RTS)にも応用できる可能性があります。詳しくは後述。

とにかくこればかりはいくら言葉で語っても伝わらないかもしれないので、ひとりでも多くの人に体験してもらえればと思う次第です。

やってみたコンテンツ

ここからは実際に自分がさわってみたゲームと感想をつらつらと載せていきます。

EVE: Valkyrie

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一人称視点のシューティングゲームです。有名どころで言うとエースコンバットみたいな感じですね。ゲームとしては昔からあるようなものなのですが、Oculus Riftによる没入感で「俺、パイロットになってる!!」感が味わえます。最初に発進で射出される場面などは思わず「うわあああああ」って声がもれてしまうような迫力ですし、右や左、さらには後ろをみても宇宙空間が広がっており、完全に気分はマクロスとか宇宙戦艦ヤマトの戦闘機です。これでロボットだったらガンダムだったんだが、、、と思うところではありますが、間違いなく近々ロボット版をどこかが開発・発売すると確信できるほどロボットものとVRは相性がいいと思わせてくれるゲームでもあります。グラフィックスも綺麗なので、迫力があって楽しいです。

ゲームとしては3次元空間を飛び回って敵を撃墜したりしていくのですが、プレイとしての大きな違いは視野の大きさと視点移動の概念が大きく変わった点でしょう。Oculus Riftは視野角が100〜110度あるらしいので、格段に目でとらえることができる範囲が広がっています。さらには視点も現実と同じ感覚で動かせるので、レーダーだけに頼らず360度敵を目で追いながら戦うということができます。レーダー機能ももちろなるのですが、近距離で高速旋回する相手のユニットを目で追いながら戦えるだけで全然違う体験でした。

単純にゲーム性としてはだいぶ難しくてまだ撃墜されるばかりなのですが、毎日こつこつやっています。全体的にみるとこれまでプレイした中で一番完成度が高いゲームだと感じています。

Lucky's Tale

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3D空間でキャラクターを動かしてステージをクリアしていく、いわゆるNINTENDO 64ゲームキューブのマリオに近いゲームです。三人称視点なんだから別にこんなHMDつけてやらなくても、と思うかもしれませんが、自分の目の前にそのフィールドそのものがあるというのは想像以上の新鮮さを与えてくれました。いってみれば、自分の机の上に箱庭があって、そこでキャラクターを動かしているような感じでプレイができます。ゲーム性でみても単純にキャラクターを動かしてステージをクリアしていくだけなんですが、これがVR視点になったとたん思った以上に楽しい。マリオなどの視点移動もかなりよく出来ていたとは思いますが、これをプレイすると今まで3Dの三人称視点のゲームでどれだけ視点移動・調整にストレスを感じていたのか気付かされます。

あと、これはゲームやコンテンツによって違うので一概には言えないようですが、このゲームではいわゆる「覗き込み」ができます。つまり体を乗り出すことによって建物の裏側にあるアイテムが見えたり、体を動かして少し先にあるステージの状況が見えたりします。なので自分が動きながら「何かを探す」というアクションができ、ゲームの幅が広がるなと感じました。このあたりは本来は広い空間を動きまわることを想定したHTC Viveの方が強いのかもしれませんが、Oculus Riftでも十分に仮想空間を感じ取れました。

また、このような「箱庭のようなものを三人称視点で見ながらゲーム」というコンテンツがVRで成り立つとすると、かなりいろいろなジャンルに応用ができるのではと思います。例えばシムシティのようなシミュレーションであっても、自分が作った街を上空から覗き込みながらプレイするというやりかただと違った楽しみ方が生まれると思います。さらにVR HMDと組み合わせて使うVR用グローブも開発中のようなので、シムシティでも模型を置いたり取り除いたりするような感覚で街を作る、というようなインターフェースも実現できると考えられます。他にもリアルタイム戦略シミュレーション(RTSエイジ・オブ・エンパイア シリーズStarCraftシリーズなど)も、これまではマウスを使ってユニットや建造物の操作をしていましたが、例えばイメージとしては動くミニチュアを手で操作しながら戦わせる、というようなインターフェースも考えられると思います。さらにはオンラインのカードゲーム(HearthStoneなど)であっても、本当に対戦相手と対峙しているかのような空間でプレイでき、FaceRigのような技術と組み合わせれば「対面にいるのはゲームキャラクターなんだけどちゃんと対戦相手の表情が伝わってくる」というようなゲーム空間が作り出せます。(それでプレイヤーが楽しくなるかキレやすくなるかは難しいところですが 苦笑)

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なにはともあれ、そういった観点から新鮮な驚きを与えてくれるゲームでした。

Windlands

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こちらは一人称視点で飛んだり跳ねたりしてステージを進んでいくタイプのアクションゲームです。ワイヤーのようなものを木に引っ掛けながら飛び回るのが特徴です。古い人間なんでゼルダの伝説のフックショットみたいなもの、というのをまず連想したのですが、スパイダーマンの蜘蛛の糸や進撃の巨人にでてくる立体機動装置をつかって飛び回る…といったほうがイメージとして近いかもしれません。このゲームはHTC Viveだと両手でそれぞれ持つ専用インターフェースを使ってプレイするようなのですが、Oculus RiftでもXbox用のコントローラで普通にプレイできます。

一人称視点のアクションゲームであり、(ちょいグラフックは雑な感じがするものの)世界を冒険するみたいな感じのプレイ内容になっており、まさにVRの本懐!といったようなゲームなのですが、実際のところ個人的にはこれが一番激しく酔って辛かったです。VRに限らずこの手のアクションゲームではよくあることですが、プレーヤーに人間離れした跳躍力があるため激しく飛んで激しく落ちていきます。ゲーム性の点からは別に不自然でもなんでもないのですが、リアルな映像として脳に入ってくると「視覚は動いていると言っているのに、体は動いてない(加速度を感じない)よ?」ということになり、お脳が混乱します。万人が同じ感想を持つかわかりませんが、夢のなかで落下しているという状況に近い気持ち悪さがあります。また、EVE: Valkyrieのような広い空間を高速に移動するのではなく、床や壁などがかなり近くにあり、「視覚が移動している」ということを強烈に認識しやすいことも原因だと思います。ひっとしたらジェットコースターとかが好きな人だとわりと大丈夫なのかもしれません(自分はジェットコースター駄目派です)。あと、飛ぶだけではなく落下を繰り返すということもあって緊張しているのか、このゲームだけめちゃくちゃ手汗をかきました。

ということで、体験としてはなかなかおもしろいのですが圧倒的に消耗が激しく、自分は1日あたり20分くらいのプレイが限界でした。でも刺激的です。

動画再生・デスクトップ表示アプリ

このあたりを試してみました。

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Windowsのデスクトップそのものやただの動画をVR上の空間に投影するだけのアプリケーションなのですが、これもまたいろいろと可能性を感じます。これまで、VRではないHMDを使った動画再生は映画館のような迫力があると言われつつも、頭を動かすと画像も動いてしまう違和感があり微妙と言われてきた気がします。これらのアプリケーションはデスクトップや動画を仮想空間にうかぶ空中ディスプレイのように表示したり、仮想空間上の壁面に投影したりします。例えばCINEVEOは映画館での上映を模したVR空間に動画をスクリーン投影しますが、Oculus Riftの没入感に加えてわざわざ映像の光が壁に反射するのを再現していたり、当然ながら頭を動かせば他のお客さんが見える、といった演出から本当に映画館にいるような錯覚を覚えます。

f:id:mztnex:20160503121719p:plain http://www.mindprobelabs.com/cineveo_themes.htmlより

CINEVEOはmp4などの動画ファイルを用意する必要がありますが、BigScreenはデスクトップの映像をそのまま表示するので、直接VRに対応していないWeb系のストリーミングサービス(ニコ動、バンダイチャンネル、AbemaTVなど)でも映画館のような環境で再生可能です。また、Whirligigは魚眼レンズ x 2で撮影したような動画を擬似的な3DとしてOculus RIftで見ることができます(この場合、映像の範囲は前方180度に限られていました)

空中ディスプレイにデスクトップが移るので、攻殻機動隊の電脳世界のようにこれで作業できたらカッコいいのに…!と思ったのですが、解像度があまりよくないという問題(後述します)があるため、例えば空中ディスプレイ上でコードを書くというのは現状かなり厳しいのではという状況です。ただ、先述したVRグローブ等と組み合わせることで新しいユーザインターフェースが期待できるため、あるいは現在マウスでやっているようなアプリケーションの作業をVRに置き換えるという時代は来るかもしれません。

その他

その他に以下のようなゲームを試してみました。

InCell VR

InMind VR

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それぞれVRのサンプルのような位置づけのコンテンツです。ゲーム性は大してないのですが「VRで仮想空間を高速移動する」という体験ができます。

MIND Path

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あまりのホラー感に開始3分で音を上げました(お化け屋敷ダメです)これは別にホラーというわけではないのですが、あまりに没入感すごいので、暗い屋敷みたいな空間でいきなりゾンビとかが脅かしにでてきたら心臓が止まる自信があります。今後も自分はホラー系をプレイしないですが、逆に好きな人には最高だと思います。

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MocuMocuDance

MMDのモデルを表示するソフト。まじかで見る等身大ミクさんかわいいです。 Leap motionと組み合わせてボーンの操作ができるようで、はやくも手の動きをセンスするインターフェースとの組み合わせの良さを見せてくれています。

Oculus Riftの課題

さて、散々持ち上げた後でなんですが…ぶっちゃけ結構いろいろな課題があると思います。

お値段

非常に高価だと思います。まず本体が送料込みで94,600円、さらに接続先のPCの最低推奨スペックとしてCPU i5-4590+Graphci Card: NVIDIA GTX970以上を要求してくるので、コアPCゲーマでもないかぎりは少なく見積もっても10万強のPCに買い換える必要があります。よって現状では合計20万円以上の初期投資が必要であり、なかなかハードルが高いというのは否めません。

画質がいまいち

没入感すごい!という話をさせてもらったのですが、よくよく画面をじーっと見つめると結構粗が目立つ解像度として見えます。screen-door effect(網戸効果)というらしいのですが、そもそもディスプレイ部分に眼球が近すぎるため本来の解像度より粗く見えてしまうようです。そういう意味ではふと画像の粗さに気づいて「あ、仮想空間なんだな」と時々思い出すレベルになっています。逆に高い解像度で見えるようになったら現実より現実っぽい仮想空間ができあがるのではと思うので、今後の技術の向上に期待です。

メガネ

当方完全にメガネ野郎なので結構深刻な問題です。構造的には顔に密着するようになっているため、持っているメガネを無理やり装着しようとするとすべからくフレームがへしゃげそうになり、そのまま使うのを断念しました。結局どうしたかというと、ひとまずは昔のメガネを分解してレンズの前におき、無理くり対応しています。いろいろな対応策が考えられてはいるようですが、個人的には生まれて初めてコンタクトレンズの購入を検討しているところです。

f:id:mztnex:20160503000921j:plain こんな感じ。意外と置いただけでもまあまあなんとかなる。

酔う

正直なところ、これが最大の問題だと思います。Windlandsの解説でも書いた通り、そもそも移動がともなうコンテンツだと「視覚情報では加速度がかかっているはずの状態なのに体は加速度を感じていない」というミスマッチが必ずおきるので、体に負担?がかかっているような気がしてきます。ここ数年乗り物酔いや普通のディスプレイでFPSとかのゲームをやって一切酔ったことがない自分でも、ものによっては1時間ぐらいでちょっとキツくなってきます。これはもう人類が進化して三半規管とかがそういう視覚情報と体感加速度のギャップとかに対応するとかしないといけないのかもしれませんが、どうにか解消してくれないかなぁと思う点ではあります。

まとめ

買いか買いじゃないか、と聞かれたらまだ普及期には至っていない、というのが正直な感想です。お値段+諸問題と得られる効果を考えるとちょっと面白そう、というノリで買えるおもちゃではないと思います。しかし、個人的には十分なインパクトがありVRの可能性を大いに実感できる製品だったことは間違いありません。例えるなら、1980年代に給料一月分ぐらいするようなコンピュータを一部のマニア層だけが買って、可能性を感じながらもほそぼそといじっていた黎明期に近いと思います。このOculus Riftが現行の値段・性能でそのまま普及するとは自分も思いませんが、5年後、あるいは10年後にVRというものがなんらかの形で社会の一部で使われているだろう、ということは確信できます。

ということで、Oculus RiftにかぎらずHTC ViveでもPlayStation VRでもいいのですが、ぜひこれらの製品に触れられる機会があれば一度体験することをお勧めします!