ある研究者の手記

セキュリティとかゲームとかプログラミングとかそのへん

情報セキュリティ関連の求人

先日転職したわけですが、転職活動序盤に「そもそも情報セキュリティ関連の求人ってどういうのがあるんだろう?」と思ってばーっといろいろな職種を見渡していました。その結果、概ねこういうカテゴリの募集があるのか、という知見を得たのでまとめてみます。これから情報セキュリティ関連の職種への就職・転職を考えている人の参考になれば幸いです。

なお、筆者の個人的嗜好によってバイアスがかかっている可能性は多分にあり、まったくもって網羅性を保証するものではありません。

脆弱性診断

自社で開発するプロダクトやサービスを検査し、脆弱性を発見する仕事。また開発物のチェックだけでなく、セキュアな開発のガイドラインを作成するというような仕事が付け加えられている場合もある。プロダクトやサービスに直接関連する開発の知識・経験が求められる。

SOCオペレータ

サーバやネットワークを監視してセキュリティインシデントを発見・対応する仕事。非常に規模が大きい自社サービスを抱えているところでは自社内だけを対応するケース(プライベートSOC)もあるが、おおむね契約したお客さんの環境を監視するManaged Security Serivceの要員を募集している場合が多い。監視機器の環境構築・導入・保守も担当する。インシデントを発見した場合に報告するだけなのか、インシデント対応をサポートするのかなどは会社によって異なる。

社内全体のリスク管理

個別のプロダクトやサービスの脆弱性を検査するだけでなく、社内全体のリスク評価の実施して改善案をだしたり、インシデント発生時の演習のとりまとめをやったりする。CSIRT (Computer Security Incident Response Team) に近い業務を求められるものもある模様。かなり上級職で給与レンジも高いが、幅広く深い知識と経験が要求される感じがした。

ITシステム部門(セキュリティ担当)

大手日系企業などに多い。社内のIT利用を統括するIT部門においてセキュリティ関連の業務を担う。社内でIT機器を使う際のセキュリティ関連ガイドラインを作成したり、ISMSなどのレギュレーション対応、セキュリティベンダへの発注、監査対応など諸々を対応する模様。自分で手を動かしてテクニカルなことをやる場面は少なそう。

インフラエンジニア

IT部門とやや似ているが、どちらかというと自社サービスのアプリケーション、ミドルウェア以外の部分(OS、ネットワーク、サーバ管理など)を担当し、その中でセキュリティ業務も担当すると言った感じ。どちらかというとセキュリティはおまけ要素っぽさがある。

セキュリティプロダクトベンダのテクニカルセールスやサポート

外資系ベンダに多い。日本でプロダクトを売る時に導入や運用において起こる技術的な課題を解決する。またはプロダクトを導入後の問題に対して対応するようなポジション。外資系だとおそらく上司が海外にいるとか普通にあるっぽいので求人で英語力必須とある。

コンサルタント

お客さんのセキュリティ上の課題を洗い出し、ソリューションまでの道筋を示したりする。観測した範囲だとセキュリティ専門にやるというよりはITコンサルの中の一部の業務という感じっぽい。ここまでくるとあんまりエンジニアという枠ではないかも。

その他

  • リサーチャー:脅威分析などを専門にやるポジション。募集要項を見る限り学会などでの発表を目指すような研究者ではない(トーマツ等)
  • セキュリティプロダクトベンダの開発エンジニア:国内で募集している例はかなり少ない(トレンドマイクロぐらい?)
  • インシデントレスポンスチーム:まれに見かけた。自社内のインシデント対応を担当

退職します

2017年10月31日をもって,6年7ヶ月お世話になった日本IBMを退職します.

何やってたの?

最初に入社したときは研究部門(東京基礎研究所)につとめていてIBMクラウド上のログ管理のシステムやSIEM関連の開発をやっていました.2015年4月から1年半ほどIBM Tokyo SOC (Security Operation Center) で働かせていただいたのですが,いろいろな力学によって2016年9月ごろにはまた研究部門に戻っていました.

研究所では,自分はどちらかというと開発よりのプロジェクトをやることが多く,実験したり論文書いたりというようなアカデミックな活動はあまりできていません.ただ,やはりまわりは一流の研究者というか超人のような人たちが多く,色々刺激されたり勉強させてもらいました.特に学生時代の研究は我流で突き進んでいたところが少なからずあったので,改めて研究のやりかたについて学べたのはありがたかったです.

もともと学生時代にIDS(侵入検知システム)まわりをやっていたこともあり,SOCではその経験を活かしつつ, 実際の現場ではどのようになっているかということを肌感覚として大いに学ばせてもらいました. 最初の頃は純粋にアナリスト業務をやっていましたが、途中から業務効率化や分析の方が面白くなってしまい、後半はそういったツールの開発に取り組んでいました。Tokyo SOCレポート*1もほそぼそと執筆を続けさせてもらい楽しかったです.

現職どうだった?

素直に書いてみたいと思います.

  • 研究所は完全裁量労働で働く時間は相当な自由が効きましたが,一方で海外勢と一緒にやるプロジェクトだったりすると夜中の電話会議もそれなりの頻度でありました.
  • 個人的には給与に不満はありませんでした.独身一人暮らしが雑に出費しても貯金できる程度にもらっていました.
  • (少なくとも自分の周りは)仕事に対しては真摯で筋の通った方が多く,直接の人間関係で困ったことなどはほぼありませんでした.
  • 非常に古く大きい企業(創業から106年,全世界で社員数40万人弱*2 )であるため,そういった組織特有のしがらみというか壁を感じる場面は少なくなかったです.

何で辞めるの?

新しい経験を積みたくなった,というのが最も大きな理由です.

開発に従事するのもSOCで監視をするのもそれぞれ楽しさはありますが,情報セキュリティという視点でみると それぞれ局所的になってしまっているなと感じていました.一口に情報セキュリティといっても, 現実にやならければいけないことは多岐にわたりそれぞれが密に連携している...と思っています. 今後,何か一つの技術や活動に注力するとしても,一度全体を見渡して情報セキュリティの設計・実装・運用に携わってみたいと思うようになりました.

そのためには現在の会社だとどうしても「BtoBのベンダ」という立ち位置になって局所的な話になりがちになってしまうため, もっと自分が全体に責任をもって取り組めるユーザ企業でセキュリティに取り組んでみたいと思って退職を決めました.

どこに行くの?

11月1日よりCookpad社にてセキュリティエンジニアとしてお世話になる予定です.セキュリティ界隈でまたしばらく活動させて頂くことになるかと思いますし,アカデミック方面にもできれば関わり続けたいと思っております.本職の開発の方々には及ぶべくもありませんが,開発自体は割りと好きな方なのでセキュリティ関連で面白いものを作っていくということもやりたいですね.

ということで,今後共何卒よろしくお願いいたします.

ZIP SIM使ってみた@ニューヨーク

TL;DR

とりあえず次回も使ってもいいかな,という印象

使ってみたもの・環境など

出張で1週間ほどUSに行くことになり,せっかくSIM free版のiPhoneを持っているのでなるべく安く済ませてみようということで日本で買えるprepaid SIMにチャレンジしてみました

www.amazon.co.jp

  • 機種: iPhone SE (SIM free版)
  • 使った場所: NewYorkCity および White Plains周辺
  • 使ってた期間: 1週間

良かった点

  • 地下鉄やトンネル内などではさすがに電波がとどかなかったが,それ以外の屋外ではほぼ問題なく使えた
  • 通信速度はとても速いとは思わないまでも,過剰なストレスを感じるほどではない.普通
  • ホテルのWiFiと組み合わせて使ったところ,通信量は7日間でおよそ300MB強だったので容量も問題なし
    • ただし平日はほとんど仕事でつかっておらず,日中もフルで使ったのは土日だけなので1週間観光であちこち行くとかだと若干心もとないかも
    • 追加容量プラン("top up")もあるので必要に応じて追加金できる

良くなかった点

  • このSIMに限った話ではないのかもしれないが,屋内が比較的弱い.例えばJFK空港内とかはかろうじて通信できるが不安定
  • 「SIMを指してから5分以内にSMSでUSの郵便番号(ZIP code)を送るとその地域の電話番号が割り振られる」という説明だったのに,指した瞬間にSMSが飛んできて勝手に番号が割り当てられた.まあ通話使わないのでそんなに困らなかったけど・・

tips

  • APNの設定を変更する必要がある
    • 普段IIJ mioを使っているのだがちゃんとプロファイルを削除しないと競合して上手く動かない
    • APNの設定をしたあと一度iPhoneを再起動したらデータ通信できるようになった

悪意のあるドメイン名のブラックリストをまとめて取得・管理するツール mdstore を公開しました

悪意のあるドメイン名のブラックリストを取得・管理する mdstore というツールを作って公開しました。

github.com

世の中にはフィッシング詐欺マルウェアによる攻撃に使われるドメイン名のブラックリストを公開しているサービスがいくつかあります(参考)。近年はDGA(Domain Generation Algorithm)を利用したマルウェアもあるためブラックリスト化だけでは追いつかない場合もありますが、それでも既知の攻撃に利用されるドメイン名の名前解決を発見もしくは防止できれば、水際で攻撃による被害を食い止められる可能性があります。

ただ、このようなブラックリストは提供しているサイトによってカバーしている領域などが違うため、ブラックリストごとに違うドメインが扱われています。多くのドメインを網羅しようとすると複数のサイトからデータを取得する必要がありますが、フォーマットが異なるなどの理由から一手間必要です。

このツールは複数のブラックリストをローカルにダウンロードし、DBに投げ入れて管理・利用することで、この一手間を簡略化しようというものです。2017年1月7日現在、以下の3サイトからデータを取得します。

注意:ブラックリストを提供している各サイトの利用規約では基本的にinternalな利用は認めているようですが、特に商用利用などをする場合には詳細をご自身でよく確認してください。

使い方

セットアップ

本ツールはnodeで動作し、redisにデータを格納します。動作を確認しているバージョンは以下のとおりです。

  • node: v7.2.1, v6.0, v6.1
  • redis: v3.2.6

インストールは環境に合わせてよしなにやってください。その後、npmを使ってmdstoreをインストールします。

$ npm install -g mdstore

パスを通すのが面倒でなければカレントディレクトリへのインストール(上記コマンドから-g を抜く)でも問題ありません。

さらにツール利用前にredis-serverが動作していることを確認してください。

  1. install mdstore by npm npm install -g mdstore
  2. start redis server, e.g. redis-server &

またデフォルトのredis server接続先 (localhost, port 6379, db 0) 以外を使いたい場合はオプションで指定できます。

  • -s or --host: redis server host
  • -p or --port: redis server port
  • -d or --db: redis server db

ブラックリストの更新

update コマンドを使うことで各サイトのブラックリストをダウンロードし、DBへの格納までを実施します。すでに対象のドメイン名が存在する場合は、取得したという履歴が追記されます。現在サポートしているサイトは3サイトだけですが、hpHostsが特に件数が多いため完了までに2〜3分かかります。

$ mdstore update
update: OK

ドメインを探す

get コマンドを使うことであるドメイン名が存在するかどうかを調べることができます。下記では例として 151.ru というドメイン名が存在しているかどうかをクエリしています。

% mdstore get 151.ru
2017-01-06T14:44:05.347Z { source: 'hphosts', ts: 1483713845.347 }

左のカラムが対象となるブラックリストをダウンロードした時刻になります。右側のtsのフィールドがタイムスタンプでこれをDateに変換したものです。ドメイン名がブラックリストに追加された時刻ではない点に注意してもらえればと思います。sourceはブラックリストの取得元を表しており、hphostsdnsbhmvpsのように表示されます。

その他、データの取得元で掲載されている項目に応じて追加のメタ情報が表示されます。

/etc/hosts の生成

ローカルのredisに保存してあるデータをもとに、悪意のあるドメイン名を 127.0.0.1 に強制的に変換する /etc/hosts を生成します。これを /etc/hosts と置き換えることで悪意のあるサーバと通信する可能性を低減させることができます。

$ mdstore hosts > hosts.txt
$ head hosts.txt
127.0.0.1       localhost
::1     localhost
127.0.0.1       www.wwsupport.net
127.0.0.1       www.memdesign.co.uk
127.0.0.1       www.titanweb.net
127.0.0.1       www.livingston.rs
127.0.0.1       iphonesupport.co.uk
127.0.0.1       up1702.info
127.0.0.1       dcstest.wtlive.com
127.0.0.1       ad.doubleclick.net.34325.9225.302br.net
$ sudo cp hosts.txt /etc/hosts         # Linuxの場合
$ sudo cp hosts.txt /private/etc/hosts # macOSの場合

データへのアクセス

CLIでアクセスする以外には、ローカルのredisに格納したデータはmdstoreのライブラリを使って参照することができます。以下のようなnodeのコードでアクセスできます。DNSの問い合わせログを持っている場合、自分でコードを書くことで不審なサイトへのアクセスがなかったかを確認できます。

var mdstore = new (require('mdstore')).Redis();
mdstore.update((err) => {
  // synced
        mdstore.get('is.the.domain.malicious.com', (err, res) => {
          if (res.length > 0) {
                  console.log('yes, the domain name is malicious');
          } else {
                  console.log('no, this is benign');
                }
        });
});

また、当然ですがredis serverに直接クエリすることも可能です。ただし、履歴データはMessagePackでエンコードされているので直接人間が読むのはちょっと難しいです。一応、以下のような1 linerで表示させることはできます。

$ redis-cli --raw lindex 151.ru 0 | node -e "process.stdin.pipe(require('msgpack-lite').createDecodeStream()).on('data', console.log);"

Oculus Riftはいいぞ。最高だ

f:id:mztnex:20160502221750j:plain

1月ごろ事前予約開始したのを偶然知り、9万円以上という値段に一瞬たじろぎながらも完全にノリと勢いだけで注文したOculus Riftがついに先週自宅に届いたのですが、この一週間毎日遊んだ感想をまとめておきたいと思います。ひとことで言うと、自分がこの十年の間に触ったガジェットの中では最高に興奮しました。やばい。Oculus Riftやばい。

ご存じない方のために念のため説明しておくと、Oculus RiftHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の一種です。これまでのHMDは頭を動かすと自分の頭についているHMD本体も一緒に動くため、映像も一緒に動いてしまうので単純に「頭に普通のディスプレイをくっつけているだけ」に等しい状態でした。しかしOculus Riftは内部・外部にセンサーがあり「頭を動かすと見えている映像も追随して動く」という機能を実現しています。このような製品は総称してVR(バーチャルリアリティHMDなどと呼ばれており、HTC VivePlayStation VRもその仲間です。どういうことが起きるのかの雰囲気は以下の動画からどうぞ。

www.youtube.com

まず総評

自分の語彙のなさが歯がゆいのですが、とにかくまず言えることは没入感が半端なくすごいです。センサーで頭の動きを追跡して映像を追随させる、と言われると「どうせ微妙に位置がずれたり反応がぶれたりするんでしょう?」と思うかもしれません。というか、自分自身がそう思っていたのですが、使ってみると完璧と言って差し支えないほどの精度で映像が動くという点に驚愕しました。格ゲーをやりこんでいるような人だとフレームレートの違いが認識できるらしいので、そのレベルになるとひょっとしたら違和感を感じるのかもしれませんが、私のような一般人にしてみると映像の動きはリアルと全く変わらないと感じました。一人称視点の映像だと完全にその世界に入りこんで「どこだここ!?」みたいになります。

もう一つすごいと思ったのはコンテンツの可能性の幅の広さです(コンテンツそのものの量はまだそれほど多くない)。今までVRはゲームに使うものだよね的な議論が多かったような気がしていますが、思った以上にいろいろな分野で応用できるのではないかと感じました。ゲームも一人称視点のものに限られるかと考えていたのですが、三人称視点のゲームとかシムシティのようなシミュレーションゲーム、あるいはリアルタイム戦略ゲーム(RTS)にも応用できる可能性があります。詳しくは後述。

とにかくこればかりはいくら言葉で語っても伝わらないかもしれないので、ひとりでも多くの人に体験してもらえればと思う次第です。

やってみたコンテンツ

ここからは実際に自分がさわってみたゲームと感想をつらつらと載せていきます。

EVE: Valkyrie

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一人称視点のシューティングゲームです。有名どころで言うとエースコンバットみたいな感じですね。ゲームとしては昔からあるようなものなのですが、Oculus Riftによる没入感で「俺、パイロットになってる!!」感が味わえます。最初に発進で射出される場面などは思わず「うわあああああ」って声がもれてしまうような迫力ですし、右や左、さらには後ろをみても宇宙空間が広がっており、完全に気分はマクロスとか宇宙戦艦ヤマトの戦闘機です。これでロボットだったらガンダムだったんだが、、、と思うところではありますが、間違いなく近々ロボット版をどこかが開発・発売すると確信できるほどロボットものとVRは相性がいいと思わせてくれるゲームでもあります。グラフィックスも綺麗なので、迫力があって楽しいです。

ゲームとしては3次元空間を飛び回って敵を撃墜したりしていくのですが、プレイとしての大きな違いは視野の大きさと視点移動の概念が大きく変わった点でしょう。Oculus Riftは視野角が100〜110度あるらしいので、格段に目でとらえることができる範囲が広がっています。さらには視点も現実と同じ感覚で動かせるので、レーダーだけに頼らず360度敵を目で追いながら戦うということができます。レーダー機能ももちろなるのですが、近距離で高速旋回する相手のユニットを目で追いながら戦えるだけで全然違う体験でした。

単純にゲーム性としてはだいぶ難しくてまだ撃墜されるばかりなのですが、毎日こつこつやっています。全体的にみるとこれまでプレイした中で一番完成度が高いゲームだと感じています。

Lucky's Tale

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3D空間でキャラクターを動かしてステージをクリアしていく、いわゆるNINTENDO 64ゲームキューブのマリオに近いゲームです。三人称視点なんだから別にこんなHMDつけてやらなくても、と思うかもしれませんが、自分の目の前にそのフィールドそのものがあるというのは想像以上の新鮮さを与えてくれました。いってみれば、自分の机の上に箱庭があって、そこでキャラクターを動かしているような感じでプレイができます。ゲーム性でみても単純にキャラクターを動かしてステージをクリアしていくだけなんですが、これがVR視点になったとたん思った以上に楽しい。マリオなどの視点移動もかなりよく出来ていたとは思いますが、これをプレイすると今まで3Dの三人称視点のゲームでどれだけ視点移動・調整にストレスを感じていたのか気付かされます。

あと、これはゲームやコンテンツによって違うので一概には言えないようですが、このゲームではいわゆる「覗き込み」ができます。つまり体を乗り出すことによって建物の裏側にあるアイテムが見えたり、体を動かして少し先にあるステージの状況が見えたりします。なので自分が動きながら「何かを探す」というアクションができ、ゲームの幅が広がるなと感じました。このあたりは本来は広い空間を動きまわることを想定したHTC Viveの方が強いのかもしれませんが、Oculus Riftでも十分に仮想空間を感じ取れました。

また、このような「箱庭のようなものを三人称視点で見ながらゲーム」というコンテンツがVRで成り立つとすると、かなりいろいろなジャンルに応用ができるのではと思います。例えばシムシティのようなシミュレーションであっても、自分が作った街を上空から覗き込みながらプレイするというやりかただと違った楽しみ方が生まれると思います。さらにVR HMDと組み合わせて使うVR用グローブも開発中のようなので、シムシティでも模型を置いたり取り除いたりするような感覚で街を作る、というようなインターフェースも実現できると考えられます。他にもリアルタイム戦略シミュレーション(RTSエイジ・オブ・エンパイア シリーズStarCraftシリーズなど)も、これまではマウスを使ってユニットや建造物の操作をしていましたが、例えばイメージとしては動くミニチュアを手で操作しながら戦わせる、というようなインターフェースも考えられると思います。さらにはオンラインのカードゲーム(HearthStoneなど)であっても、本当に対戦相手と対峙しているかのような空間でプレイでき、FaceRigのような技術と組み合わせれば「対面にいるのはゲームキャラクターなんだけどちゃんと対戦相手の表情が伝わってくる」というようなゲーム空間が作り出せます。(それでプレイヤーが楽しくなるかキレやすくなるかは難しいところですが 苦笑)

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なにはともあれ、そういった観点から新鮮な驚きを与えてくれるゲームでした。

Windlands

www.youtube.com

こちらは一人称視点で飛んだり跳ねたりしてステージを進んでいくタイプのアクションゲームです。ワイヤーのようなものを木に引っ掛けながら飛び回るのが特徴です。古い人間なんでゼルダの伝説のフックショットみたいなもの、というのをまず連想したのですが、スパイダーマンの蜘蛛の糸や進撃の巨人にでてくる立体機動装置をつかって飛び回る…といったほうがイメージとして近いかもしれません。このゲームはHTC Viveだと両手でそれぞれ持つ専用インターフェースを使ってプレイするようなのですが、Oculus RiftでもXbox用のコントローラで普通にプレイできます。

一人称視点のアクションゲームであり、(ちょいグラフックは雑な感じがするものの)世界を冒険するみたいな感じのプレイ内容になっており、まさにVRの本懐!といったようなゲームなのですが、実際のところ個人的にはこれが一番激しく酔って辛かったです。VRに限らずこの手のアクションゲームではよくあることですが、プレーヤーに人間離れした跳躍力があるため激しく飛んで激しく落ちていきます。ゲーム性の点からは別に不自然でもなんでもないのですが、リアルな映像として脳に入ってくると「視覚は動いていると言っているのに、体は動いてない(加速度を感じない)よ?」ということになり、お脳が混乱します。万人が同じ感想を持つかわかりませんが、夢のなかで落下しているという状況に近い気持ち悪さがあります。また、EVE: Valkyrieのような広い空間を高速に移動するのではなく、床や壁などがかなり近くにあり、「視覚が移動している」ということを強烈に認識しやすいことも原因だと思います。ひっとしたらジェットコースターとかが好きな人だとわりと大丈夫なのかもしれません(自分はジェットコースター駄目派です)。あと、飛ぶだけではなく落下を繰り返すということもあって緊張しているのか、このゲームだけめちゃくちゃ手汗をかきました。

ということで、体験としてはなかなかおもしろいのですが圧倒的に消耗が激しく、自分は1日あたり20分くらいのプレイが限界でした。でも刺激的です。

動画再生・デスクトップ表示アプリ

このあたりを試してみました。

www.youtube.com

Windowsのデスクトップそのものやただの動画をVR上の空間に投影するだけのアプリケーションなのですが、これもまたいろいろと可能性を感じます。これまで、VRではないHMDを使った動画再生は映画館のような迫力があると言われつつも、頭を動かすと画像も動いてしまう違和感があり微妙と言われてきた気がします。これらのアプリケーションはデスクトップや動画を仮想空間にうかぶ空中ディスプレイのように表示したり、仮想空間上の壁面に投影したりします。例えばCINEVEOは映画館での上映を模したVR空間に動画をスクリーン投影しますが、Oculus Riftの没入感に加えてわざわざ映像の光が壁に反射するのを再現していたり、当然ながら頭を動かせば他のお客さんが見える、といった演出から本当に映画館にいるような錯覚を覚えます。

f:id:mztnex:20160503121719p:plain http://www.mindprobelabs.com/cineveo_themes.htmlより

CINEVEOはmp4などの動画ファイルを用意する必要がありますが、BigScreenはデスクトップの映像をそのまま表示するので、直接VRに対応していないWeb系のストリーミングサービス(ニコ動、バンダイチャンネル、AbemaTVなど)でも映画館のような環境で再生可能です。また、Whirligigは魚眼レンズ x 2で撮影したような動画を擬似的な3DとしてOculus RIftで見ることができます(この場合、映像の範囲は前方180度に限られていました)

空中ディスプレイにデスクトップが移るので、攻殻機動隊の電脳世界のようにこれで作業できたらカッコいいのに…!と思ったのですが、解像度があまりよくないという問題(後述します)があるため、例えば空中ディスプレイ上でコードを書くというのは現状かなり厳しいのではという状況です。ただ、先述したVRグローブ等と組み合わせることで新しいユーザインターフェースが期待できるため、あるいは現在マウスでやっているようなアプリケーションの作業をVRに置き換えるという時代は来るかもしれません。

その他

その他に以下のようなゲームを試してみました。

InCell VR

InMind VR

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それぞれVRのサンプルのような位置づけのコンテンツです。ゲーム性は大してないのですが「VRで仮想空間を高速移動する」という体験ができます。

MIND Path

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あまりのホラー感に開始3分で音を上げました(お化け屋敷ダメです)これは別にホラーというわけではないのですが、あまりに没入感すごいので、暗い屋敷みたいな空間でいきなりゾンビとかが脅かしにでてきたら心臓が止まる自信があります。今後も自分はホラー系をプレイしないですが、逆に好きな人には最高だと思います。

www.youtube.com

MocuMocuDance

MMDのモデルを表示するソフト。まじかで見る等身大ミクさんかわいいです。 Leap motionと組み合わせてボーンの操作ができるようで、はやくも手の動きをセンスするインターフェースとの組み合わせの良さを見せてくれています。

Oculus Riftの課題

さて、散々持ち上げた後でなんですが…ぶっちゃけ結構いろいろな課題があると思います。

お値段

非常に高価だと思います。まず本体が送料込みで94,600円、さらに接続先のPCの最低推奨スペックとしてCPU i5-4590+Graphci Card: NVIDIA GTX970以上を要求してくるので、コアPCゲーマでもないかぎりは少なく見積もっても10万強のPCに買い換える必要があります。よって現状では合計20万円以上の初期投資が必要であり、なかなかハードルが高いというのは否めません。

画質がいまいち

没入感すごい!という話をさせてもらったのですが、よくよく画面をじーっと見つめると結構粗が目立つ解像度として見えます。screen-door effect(網戸効果)というらしいのですが、そもそもディスプレイ部分に眼球が近すぎるため本来の解像度より粗く見えてしまうようです。そういう意味ではふと画像の粗さに気づいて「あ、仮想空間なんだな」と時々思い出すレベルになっています。逆に高い解像度で見えるようになったら現実より現実っぽい仮想空間ができあがるのではと思うので、今後の技術の向上に期待です。

メガネ

当方完全にメガネ野郎なので結構深刻な問題です。構造的には顔に密着するようになっているため、持っているメガネを無理やり装着しようとするとすべからくフレームがへしゃげそうになり、そのまま使うのを断念しました。結局どうしたかというと、ひとまずは昔のメガネを分解してレンズの前におき、無理くり対応しています。いろいろな対応策が考えられてはいるようですが、個人的には生まれて初めてコンタクトレンズの購入を検討しているところです。

f:id:mztnex:20160503000921j:plain こんな感じ。意外と置いただけでもまあまあなんとかなる。

酔う

正直なところ、これが最大の問題だと思います。Windlandsの解説でも書いた通り、そもそも移動がともなうコンテンツだと「視覚情報では加速度がかかっているはずの状態なのに体は加速度を感じていない」というミスマッチが必ずおきるので、体に負担?がかかっているような気がしてきます。ここ数年乗り物酔いや普通のディスプレイでFPSとかのゲームをやって一切酔ったことがない自分でも、ものによっては1時間ぐらいでちょっとキツくなってきます。これはもう人類が進化して三半規管とかがそういう視覚情報と体感加速度のギャップとかに対応するとかしないといけないのかもしれませんが、どうにか解消してくれないかなぁと思う点ではあります。

まとめ

買いか買いじゃないか、と聞かれたらまだ普及期には至っていない、というのが正直な感想です。お値段+諸問題と得られる効果を考えるとちょっと面白そう、というノリで買えるおもちゃではないと思います。しかし、個人的には十分なインパクトがありVRの可能性を大いに実感できる製品だったことは間違いありません。例えるなら、1980年代に給料一月分ぐらいするようなコンピュータを一部のマニア層だけが買って、可能性を感じながらもほそぼそといじっていた黎明期に近いと思います。このOculus Riftが現行の値段・性能でそのまま普及するとは自分も思いませんが、5年後、あるいは10年後にVRというものがなんらかの形で社会の一部で使われているだろう、ということは確信できます。

ということで、Oculus RiftにかぎらずHTC ViveでもPlayStation VRでもいいのですが、ぜひこれらの製品に触れられる機会があれば一度体験することをお勧めします!

『見て覚えろ』の後ろには屍の山がある

www.recomtank.com

ちょうど職場でも新しいメンバーの教育問題がいろいろ議論されているところで、この記事を見て思ったこともいくらかあったのでつらつら書きなぐってみます。

上の人がみんな「俺は見て覚えた」というのは生存者バイアス(の可能性が高い)

どことは言いませんが、マニュアル化された教育法がない世界では確かに「自分は先輩を見て覚えた。だからお前もそうしろ」という言説をよく見かけます。できる上の人達はみんな口をそろえて言うため、それに従えば自分もできる人になれるのか、と思ったり思い込んだりしてします。しかしそれは「上を目指していた人たちが全員そのように上へあがっていた」のではなく「そのような教育方法でも生き残った人たち」なのであり、ただの生存者バイアスに過ぎません。そのやり方についていけなかった人たちがその組織・業界を去っていった結果、残った人たちなのであって、その後ろには屍の山が築かれています。個人的な経験の中でもそういった人たちをいろいろな場面で見てきました。

育てたい人物像をイメージ出来ているか

『最初から教えてばかりだと、考える能力が身につかない』という論もあり、この言葉が完全に間違いではないと思います。ただ、まずこれは程度問題であり、育てたい人物像と設定するハードルの高さのバランスを考える必要があると思います。

例えば本当の超少数精鋭を育てたいのであれば、ほぼ突き放してついてこれた人だけがその組織・業界に残る、ということもあり得ると思います。ただし先程も書いた通り、その後ろには山のような屍が築かれ、その道を志した100人に1人とか、もっとひどければ10000人に1人しか残らない、みたいな話もありえると思います。HxHのハンター試験みたいなものです。貪欲に自分で学習し、人のスキルなどを盗んでいく超逸材だけが残っていくことでしょう。ただし、このモデルは本当に人数を増やす必要が無い場合か、それだけ厳しい道でも志願する人が後を絶たない、といったような状況でなければ成立しないでしょう。

一方で超逸材がいなくてもいいが(いてもいいけど)仕事として100点満点中80点をちゃんととれる人が増えてほしい、という場合だと、全て「自分で勝手に学べ」モデルは非常に相性が悪いと思われます。一般的な企業や組織はほとんどがこちらに該当すると思われます。特に事業などの規模を拡大させたい場合は100人雇って1人しかものになりませんでした、では話になりません。こういった場合は先のブログで書かれていた通り、マニュアル化された作業手順や教育方法があってしかるべきだと考えます。

そもそも「マニュアル化できない」とはどういうことなのか

ちょっと自分のいる業界に偏ってしまいますが、基本的にマニュアル化できない仕事というのは、人によって過程や結果が異なることを許容する 仕事だと考えられます。以下、その例をあげてみます。

  1. 何かを自ら創造するような仕事(システム・ソフトウェア設計、新しい企画の立案)
  2. 前提条件の想定が難しく条件の組み合わせも複雑であり、条件の網羅が困難なもの(トラブルシューティング、インシデントレスポンス)
  3. 試行錯誤しながら進めないといけないもの(新しい機器の検証、探索的データ分析)

確かに上記のような仕事について全てマニュアル化するのはかなり難しいとは思います。しかし、全てをマニュアル化するのは難しいとしても、部分的にはいろいろマニュアル化(ないしは定型的な教育によって身につけた手順によってできるもの)できそうではないでしょうか? 例えばソフトウェアの設計などはどのような道筋でやるべきかという教本はいろいろありますし、トラブルシューティングでもまずはこれをチェックしろ、みたいな初動のマニュアルは作成できそうです。

最終的に人間が考え、発想し、創造する必要のある仕事は確実にあると思います。しかしそのためには、どこからが機械的に作業して(あるいはもう機械に作業させてもいいわけで)どこからが人間の判断の力を発揮しなければいけないか、という線引をすることが重要なのではと思います。

あと、基礎力の必要性などについてもちょっと書きたかったですが、夜更かしが過ぎてきたのでこの辺で。

博士の愛した就活(採用プロセス編)

前回からの続き。

ちょうど経団連的新卒採用プロセスがはじまったということで、博士課程をしている後輩によく話していることをまとめました。この話は私が経験した情報科学系のごく狭い範囲の知見を元に書いていますが、現在博士課程の人やこれから博士課程に進もうと考えている人の参考になれば幸いです。また、主に企業への就職を中心に話をします。

前回は就職先の選び方について書きましたが、では実際に就職しよう!として動き出した時にどういうアプローチで内定をもらうか、という部分についてです。1) 新卒採用プロセスに乗る、2) 中途枠・オープンポジションを狙う、3) つてを頼る という三本立てでお送りします。

1) 新卒向け採用プロセスに乗る

いわゆる説明会に参加して、エントリーシートをだし、何度か面接を経て採用、という学部生や修士生と同じパターンです。博士の場合は例外扱いになるケースも有りますが、こういった新卒採用プロセスを持っている会社の場合はだいたいそこに組み込まれることが多いと思います。細かい対策については学部や修士のものとほぼ変わらないのでSPI対策本などを読んでおく感じでしょう。

時期的な制約が強い

このアプローチで気をつけなければいけないのは、プロセスに乗れる時期が1年のうちに限られているという点です。2017年卒の場合は2016年6月から採用試験がはじまるので、2017年3月に卒業することを前提に2016年6月から就職活動をはじめなければなりません。

学部や修士過程では単位を落とすなどのミスをしないかぎりは決まった時期に卒業できるので「お前は何を言っているんだ」という感じかもしれませんが、ほぼ学内で卒業までが完結する学部や修士と違い、博士課程の卒業審査は学外の要素がからんでくるため、卒業時期が不安定になりやすいというリスクがあります。博士課程の在籍経験がある人はよくご存知かと思いますが、博士過程を卒業するためには研究をして博士論文を書くだけではなく、論文誌への掲載や国際学会での発表という要件が明示的・暗黙的かを問わず存在します。論文誌や国際学会での採択は学内でコントロールできるものではなく、外部の査読者に掲載や発表を了承してもらわなければなりません。これは容易なことではなく、1度の投稿には構想・実験・論文執筆に数ヶ月を要しますし、下手をすると何度投稿しても掲載・発表拒否となることもあります。こういったものが卒業条件(あるいは卒業を決めるためのプロセスの条件)に加わることで希望通りの時期に卒業できないというケースが起こりえます。そのためこの新卒向けプロセスに乗る場合、(例えば2017年卒予定だとすれば)2016年6月には論文誌や国際発表が完了・あるいは見通しが立っている状態にして、6月からは就職活動に時間を割き、その後に研究まとめ、博士論文執筆や発表をこなすということを手際よく進め、2017年3月にちゃんと卒業する、というところまでをやりとげなければなりません。

採用プロセスの課程が分かりやすい

このアプローチは時期の制約が厳しい代わりに、採用プロセスが比較的分かりやすいと言えます。中途枠や例外的な扱いになると他に参考事例が無いので、自分が今どういう状況に立っているのか(採用が進んでいるのか停滞しているのか)ということが不明瞭になりがちです。これが(ある程度大きい企業に限るかもですが)新卒採用のプロセスになると同じプロセスをやっている別の学生が一定数以上いることになります。就職希望の他の学生の方と状況をシェアできることもあるかもしれませんし、過去の事例からおおよその状況を把握できます。あくまで自分の立ち位置がわかるという程度のものですが、戦略的に複数の企業の採用面接を受けている時にはメリットになると考えられます。

2) 中途枠・オープンポジションを狙う

外資ベンチャーだと、そもそもあまり体系だてて新卒採用を実施しておらず、誰でも応募できるオープンポジションという形で募集をしているケースが多く見られます。また日本企業でも中途採用という形で新卒以外の採用希望者を雇用しているため、そこから採用プロセスに乗せてもらうというアプローチがあります。

業務内容が明確で採用プロセスも比較的柔軟

中途枠・オープンポジションはそれぞれ求められる技能や採用後の業務内容について、ほとんど事前に明示的に説明されています。前回でも少し書きましたが、新卒採用プロセスによる就職は採用後の業務内容が明示されないケースが少なからずあります。また、例えば面接中に口頭で説明されれる場合もありますが、所詮は口約束なので会社の都合によっていつの間にかに変わっている場合もあります。もちろん会社都合による業務の内容は中途枠・オープンポジションでも発生する可能性はありますが、最初から業務内容が曖昧な採用プロセスと明確なプロセスでは対応が違ってくると思われます。

また、面接・雇用タイミングの融通がききやすいというアドバンテージもあります。先述の通り、新卒採用のプロセスでは面接などの時期が限られており、内定、ないしは内々定から実際の雇用までにかなり期間があります。経団連の施策によってかなり後ろだおしされたものの、それでも約半年ほどの差があります。それに対して中途やオープンポジションの場合は採用決定後、かなり早い時期で雇用が始まると聞いています。そのため、例えば博士号の審査に関するどたばたも終わり、卒業までのいくらかの期間の間に就職活動をして就職する、というような流れもありえます。

タイミングよく求職している業務経験者

じゃあ新卒プロセスは忘れて、中途枠・オープンポジションを狙うのがいいのか?という話になりますが、もちろんデメリットもあります。

まず、中途枠やオープンポジションでは「業務経験者」を条件にしている場合が多く、そのケースでは博士課程卒はこれに該当するのか?という問題があります。博士課程での専門にマッチしていれば下手な業務経験者よりも技術的な面については優っているケースは多々あると思います。また、博士課程の学生でも研究プロジェクトをまわす経験があるのだからそういった面でも業務と比べて遜色ない、と主張する方もいらっしゃします。ただ、自分も博士課程を卒業して企業に就職して5年ほどたった今考えても、やはり経験の質は若干違うと感じています。特に中途枠という設定の窓口に多いと思いますが、そういったことを採用担当の方が懸念される場合は「新卒採用の窓口があるのでそちらからどうぞ」と突っ返されるリスクがあります。

また、受けたいときに受けられる可能性が高い事と、受けたいときに希望する職種を募集しているかというのは全く別問題になります。企業側としていつでも採用希望を受け入れるということは(適切な人材がいれば)早く採用して働き始めてほしいということの裏返しでもあります。追加で募集するということもありますが、多くの場合は人が見つかればその募集は打ち切ることになるので、この辺りの動きはかなり流動的です。また企業側の方針転換などで誰も採用しないままの打ち切りということもありえます。自分の希望する企業の希望する職種が都合の良い時期に募集しているかは完全に運である、というところにリスクがあります。

3) つてを頼る

前述の中途枠を狙う、に若干近いところがありますが、知り合いの会社の中の人経由で採用面接をうけさせてもらうケースです。博士課程の学生となると企業とのプロジェクトや学会参加などでその人なりの人脈を築いている場合が多いと思います。そういった人たちに紹介してもらい、面接を受けさせてもらいます。多くの場合、紹介してもらう人に人事権がなかったりするので、紹介=即採用みたいにはならない(というかそのケースはヤバイ)のですが、いくつか中途採用やオープンポジションに比べて有利な点があります。

面接にたどり着きやすい、というアドバンテージ

外資系に多いパターンだと思いますが、レジュメだけ登録させて「空きができたら会社から連絡を出すね」というのを見かけます。こういうのは大手ほど大量のレジュメが登録されることになるので、特別な業績などあれば別でしょうが、待てども待てども連絡がこないのはざらです。その点、紹介の場合は比較的面接プロセスまではたどり着きやすく、同じような内容が書かれた大量のレジュメの中から選ばれるのを待つよりは、面接官に直接自分をアピールできるチャンスが得やすいと言えます。これは採用する側からも、どこのだれだかわからない応募者より、同じ会社で働く社員の紹介のほうが安心感があります。そのため、大企業でも応募者が面接をパスして入社したら紹介した人に褒賞がでる紹介制度がある、という話をよく聞きます。

一朝一夕ではどうにもならない

つてを頼る時の難しさは、当然ですが自分の人脈を学生時代どれくらい築けたかによって頼れる範囲が変わってくることです。これは少なくとも大学の研究室などに所属してからどのように活動してきたか、すなわち対外発表や外部講演、勉強会での交流などをどれくらい積極的にこなしてきたかということに依存します。そのためそれなりに長い期間がかかっていることが重要であり、エントリーシートのように今日明日で何十社にアプローチできるというものではありません。

自分の状況・ペースにあわせた就活を

長々と書きましたが、結局のところ博士課程にいる時点でいわゆる「みんなで足並み揃えて」何かをするという道からは外れていると思います。それぞれ学生さんごとに状況・ペースが違うので、いろいろなやり方のメリット・デメリットを勘案して自分にあった方法を選ぶと良いと思います。