博士の愛した就活(採用プロセス編)
前回からの続き。
ちょうど経団連的新卒採用プロセスがはじまったということで、博士課程をしている後輩によく話していることをまとめました。この話は私が経験した情報科学系のごく狭い範囲の知見を元に書いていますが、現在博士課程の人やこれから博士課程に進もうと考えている人の参考になれば幸いです。また、主に企業への就職を中心に話をします。
前回は就職先の選び方について書きましたが、では実際に就職しよう!として動き出した時にどういうアプローチで内定をもらうか、という部分についてです。1) 新卒採用プロセスに乗る、2) 中途枠・オープンポジションを狙う、3) つてを頼る という三本立てでお送りします。
1) 新卒向け採用プロセスに乗る
いわゆる説明会に参加して、エントリーシートをだし、何度か面接を経て採用、という学部生や修士生と同じパターンです。博士の場合は例外扱いになるケースも有りますが、こういった新卒採用プロセスを持っている会社の場合はだいたいそこに組み込まれることが多いと思います。細かい対策については学部や修士のものとほぼ変わらないのでSPI対策本などを読んでおく感じでしょう。
時期的な制約が強い
このアプローチで気をつけなければいけないのは、プロセスに乗れる時期が1年のうちに限られているという点です。2017年卒の場合は2016年6月から採用試験がはじまるので、2017年3月に卒業することを前提に2016年6月から就職活動をはじめなければなりません。
学部や修士過程では単位を落とすなどのミスをしないかぎりは決まった時期に卒業できるので「お前は何を言っているんだ」という感じかもしれませんが、ほぼ学内で卒業までが完結する学部や修士と違い、博士課程の卒業審査は学外の要素がからんでくるため、卒業時期が不安定になりやすいというリスクがあります。博士課程の在籍経験がある人はよくご存知かと思いますが、博士過程を卒業するためには研究をして博士論文を書くだけではなく、論文誌への掲載や国際学会での発表という要件が明示的・暗黙的かを問わず存在します。論文誌や国際学会での採択は学内でコントロールできるものではなく、外部の査読者に掲載や発表を了承してもらわなければなりません。これは容易なことではなく、1度の投稿には構想・実験・論文執筆に数ヶ月を要しますし、下手をすると何度投稿しても掲載・発表拒否となることもあります。こういったものが卒業条件(あるいは卒業を決めるためのプロセスの条件)に加わることで希望通りの時期に卒業できないというケースが起こりえます。そのためこの新卒向けプロセスに乗る場合、(例えば2017年卒予定だとすれば)2016年6月には論文誌や国際発表が完了・あるいは見通しが立っている状態にして、6月からは就職活動に時間を割き、その後に研究まとめ、博士論文執筆や発表をこなすということを手際よく進め、2017年3月にちゃんと卒業する、というところまでをやりとげなければなりません。
採用プロセスの課程が分かりやすい
このアプローチは時期の制約が厳しい代わりに、採用プロセスが比較的分かりやすいと言えます。中途枠や例外的な扱いになると他に参考事例が無いので、自分が今どういう状況に立っているのか(採用が進んでいるのか停滞しているのか)ということが不明瞭になりがちです。これが(ある程度大きい企業に限るかもですが)新卒採用のプロセスになると同じプロセスをやっている別の学生が一定数以上いることになります。就職希望の他の学生の方と状況をシェアできることもあるかもしれませんし、過去の事例からおおよその状況を把握できます。あくまで自分の立ち位置がわかるという程度のものですが、戦略的に複数の企業の採用面接を受けている時にはメリットになると考えられます。
2) 中途枠・オープンポジションを狙う
外資やベンチャーだと、そもそもあまり体系だてて新卒採用を実施しておらず、誰でも応募できるオープンポジションという形で募集をしているケースが多く見られます。また日本企業でも中途採用という形で新卒以外の採用希望者を雇用しているため、そこから採用プロセスに乗せてもらうというアプローチがあります。
業務内容が明確で採用プロセスも比較的柔軟
中途枠・オープンポジションはそれぞれ求められる技能や採用後の業務内容について、ほとんど事前に明示的に説明されています。前回でも少し書きましたが、新卒採用プロセスによる就職は採用後の業務内容が明示されないケースが少なからずあります。また、例えば面接中に口頭で説明されれる場合もありますが、所詮は口約束なので会社の都合によっていつの間にかに変わっている場合もあります。もちろん会社都合による業務の内容は中途枠・オープンポジションでも発生する可能性はありますが、最初から業務内容が曖昧な採用プロセスと明確なプロセスでは対応が違ってくると思われます。
また、面接・雇用タイミングの融通がききやすいというアドバンテージもあります。先述の通り、新卒採用のプロセスでは面接などの時期が限られており、内定、ないしは内々定から実際の雇用までにかなり期間があります。経団連の施策によってかなり後ろだおしされたものの、それでも約半年ほどの差があります。それに対して中途やオープンポジションの場合は採用決定後、かなり早い時期で雇用が始まると聞いています。そのため、例えば博士号の審査に関するどたばたも終わり、卒業までのいくらかの期間の間に就職活動をして就職する、というような流れもありえます。
タイミングよく求職している業務経験者
じゃあ新卒プロセスは忘れて、中途枠・オープンポジションを狙うのがいいのか?という話になりますが、もちろんデメリットもあります。
まず、中途枠やオープンポジションでは「業務経験者」を条件にしている場合が多く、そのケースでは博士課程卒はこれに該当するのか?という問題があります。博士課程での専門にマッチしていれば下手な業務経験者よりも技術的な面については優っているケースは多々あると思います。また、博士課程の学生でも研究プロジェクトをまわす経験があるのだからそういった面でも業務と比べて遜色ない、と主張する方もいらっしゃします。ただ、自分も博士課程を卒業して企業に就職して5年ほどたった今考えても、やはり経験の質は若干違うと感じています。特に中途枠という設定の窓口に多いと思いますが、そういったことを採用担当の方が懸念される場合は「新卒採用の窓口があるのでそちらからどうぞ」と突っ返されるリスクがあります。
また、受けたいときに受けられる可能性が高い事と、受けたいときに希望する職種を募集しているかというのは全く別問題になります。企業側としていつでも採用希望を受け入れるということは(適切な人材がいれば)早く採用して働き始めてほしいということの裏返しでもあります。追加で募集するということもありますが、多くの場合は人が見つかればその募集は打ち切ることになるので、この辺りの動きはかなり流動的です。また企業側の方針転換などで誰も採用しないままの打ち切りということもありえます。自分の希望する企業の希望する職種が都合の良い時期に募集しているかは完全に運である、というところにリスクがあります。
3) つてを頼る
前述の中途枠を狙う、に若干近いところがありますが、知り合いの会社の中の人経由で採用面接をうけさせてもらうケースです。博士課程の学生となると企業とのプロジェクトや学会参加などでその人なりの人脈を築いている場合が多いと思います。そういった人たちに紹介してもらい、面接を受けさせてもらいます。多くの場合、紹介してもらう人に人事権がなかったりするので、紹介=即採用みたいにはならない(というかそのケースはヤバイ)のですが、いくつか中途採用やオープンポジションに比べて有利な点があります。
面接にたどり着きやすい、というアドバンテージ
外資系に多いパターンだと思いますが、レジュメだけ登録させて「空きができたら会社から連絡を出すね」というのを見かけます。こういうのは大手ほど大量のレジュメが登録されることになるので、特別な業績などあれば別でしょうが、待てども待てども連絡がこないのはざらです。その点、紹介の場合は比較的面接プロセスまではたどり着きやすく、同じような内容が書かれた大量のレジュメの中から選ばれるのを待つよりは、面接官に直接自分をアピールできるチャンスが得やすいと言えます。これは採用する側からも、どこのだれだかわからない応募者より、同じ会社で働く社員の紹介のほうが安心感があります。そのため、大企業でも応募者が面接をパスして入社したら紹介した人に褒賞がでる紹介制度がある、という話をよく聞きます。
一朝一夕ではどうにもならない
つてを頼る時の難しさは、当然ですが自分の人脈を学生時代どれくらい築けたかによって頼れる範囲が変わってくることです。これは少なくとも大学の研究室などに所属してからどのように活動してきたか、すなわち対外発表や外部講演、勉強会での交流などをどれくらい積極的にこなしてきたかということに依存します。そのためそれなりに長い期間がかかっていることが重要であり、エントリーシートのように今日明日で何十社にアプローチできるというものではありません。
自分の状況・ペースにあわせた就活を
長々と書きましたが、結局のところ博士課程にいる時点でいわゆる「みんなで足並み揃えて」何かをするという道からは外れていると思います。それぞれ学生さんごとに状況・ペースが違うので、いろいろなやり方のメリット・デメリットを勘案して自分にあった方法を選ぶと良いと思います。